仔馬の日記

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「まなざし」はあたたかいもの?

 3月も折り返したということで、わたしのモラトリアムもあと2週間ほどとなりました。6年ほど学生をやってきましたが、それほど勤勉な学生ではありませんでした。そして、それに気が付くのは、往々にして学生生活が折り返してしばらくしてからというのが相場なのでしょうか。まいったものです・・・。

 

 さてさて、社会学という学問をかじってきましたが、どの領域にも古典や名著といわれる重要な文献があるわけです。ですが、なにせ不真面目な学生でしたので、それらの文献を流し読みしていたり、読み飛ばしていたりしているわけです。そのツケというものは、だいたい最後にまわってきてとても苦労しました(というより、むしろこれからも?)

 

 というわけで、ここ最近はあたらしい本だけではなく、以前読んだ本や本棚に積みっぱなしだった本を読んでいました。

 

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 さて、みなさんは「まなざし」ということばを聞いて、どんな印象を持つでしょうか?

 

 辞書的には、ある対象に視線を向けるときの目のようすのことを「まなざし」というようです。日常的には、「親から子どもに向けられるまなざし」や「羨望のまなざし」などと使われることがしばしばあるかと思います。ポジティブ(肯定的)な印象や、ネガティブ(否定的)な印象など、その人によっていろいろなとらえかたをするかと思います。

 

 

 この「まなざし」というものは、社会学でも重要なキーワードのひとつでもあります。「まなざし」タイトルにつけている社会学の文献で、もっとも有名なのが、見田宗介先生の『まなざしの地獄――尽きなく生きることの社会学』です。

まなざしの地獄

まなざしの地獄

 
 

 この論考は、1968年から1969年に、当時19歳の少年によって起こされた連続射殺事件を手掛かりに、日本社会の一端を社会学的に描き出した、「同時」の現代日本社会論です。

 

 この事件を起こした犯人N・Nは、出身地でみずからに向けられる周囲からの「まなざし」から逃れ、あらたな人生を歩むべく上京します。ですが、東京で向けられる(向けられていると本人が実感している)「まなざし」によって、自己のアイデンティティを否定的に規定されてしまいます。「まなざし」から逃れようと新天地に赴くのですが、残念ながらそこでも「まなざし」から逃れることが出来ず、そのアリ地獄から抜け出せなくなってしまい、犯罪を犯してしまったわけです。

 

 「まなざし」とは、かならずしも温かいものであるとは限らないわけです。この論考が、1960年代から1970年代、つまり高度経済成長期の日本の階級構造を描き出しているとしたら、つぎに紹介する本は、2000年代以降の中高生たちに向けられる/中高生たちが向けあっている「まなざし」がテーマとなっています。それが、土井隆義先生の『友だち地獄――「空気を読む」世代のサバイバル』です。

友だち地獄―「空気を読む」世代のサバイバル (ちくま新書)

友だち地獄―「空気を読む」世代のサバイバル (ちくま新書)

 

 社会学が専門でなくても、教育学部・心理学部でも読んでいる方がいるのではないでしょうか。筆者である土井先生のもっとも有名な著作が、この1冊だと思います。(この論考ではありませんが、今年のセンター試験の評論でも土井先生の文章が出題されていました。あ、わたしは解いておりません、、、)。

 

 この論考のキーワードは、「優しい関係」。

 土井先生は、

対立の回避を最優先する若者たちの人間関係(土井 2008: 08)

を「優しい関係」と名付けました。

 

 「優しさ」は、「思いやり」や「慈しみの心」をしめす形容詞ですが、「優しい関係」における「優しさ」は正反対の性質のものであるわけです。土井先生は、中高生の人間関係においてもっとも重要なことのひとつが、「優しい関係」の維持を最優先にして衝突を避けることであると指摘しています。だからこそ、過剰に「空気を読む」というコミュニケーションがおこなわれているわけです。

 

 思い返してみると、「KY」ということばが流行ったのは、わたしが高校生くらいでした。土井先生がこの本を書かれた時期と完全に一致しています(当たり前ですが)。

 

 ただし、わたし(たち)が中高生の時よりも、いまのスマホ・LINEを使いこなす中高生のほうが、より高度な関係性のなかを生きている/生かざるを得なくなっているともいえるかもしれません。スマホを介してつねに「まなざされ」ている、そしてそれに「生きづらさ」を抱えている中高生は、一度『友だち地獄』を手に取って、開いてみるのもいいかもしれません。

  

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 ケータイからスマホに乗り換えて4年ほど。LINEもおなじくらいの期間使っているのですが、QRコードを使った連絡先の交換方法を、数日前にはじめて妹(17歳)から教えてもらいました。「そんなのも知らないのwww」と超笑われました、、、。